新しい歴史教科書をつくる会|育鵬社盗作問題の交渉及び全経過

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育鵬社との交渉経過を公表するにあたって

平成25年2月28日
新しい歴史教科書をつくる会

「つくる会」は昨年10月以来、育鵬社による大規模な著作権侵害問題を、話し合いで解決すべく、先方との書簡のやりとりと3回の正式交渉を行ってきました。しかし、その努力の甲斐もなく、先方は「つくる会」の善意に基づく全ての提案を拒否し、交渉は決裂いたしました。従って、問題の解決は基本的には司法の手にゆだねられることになりました。

以下、書簡の往復と交渉の経過を明らかにいたしますので、2月27日付会長名の書簡と併せてお読みいただき、「つくる会」の立場と主張についての正確なご理解をお願いいたします。


1、育鵬社との正式交渉が実現するまで

平成24年6月30日、「つくる会」は定期総会において、「育鵬社歴史教科書盗作問題について」という文書を公表(①)LinkIcon、この問題を社会に広く訴えていくことを決議した。その方針に基づき、10月には、『歴史教科書盗作事件の真実』(自由社)を著し、育鵬社発行の『中学社会 新しい日本の歴史』におびただしい数の盗作があることを告発した。この本は、育鵬社側が行うべきことを3点述べている。すなわち、第一に盗作を認め謝罪すること、第二に賠償をすること、第三に責任者を処罰することである。


10月23日、著作権を侵害された「つくる会」側の執筆者は、代理人を通して育鵬社側に内容証明郵便を送った。同時に、「つくる会」としては、3点の要求を法的手段に訴えることなく出来るだけ穏便な形で実現するために、育鵬社、育鵬社側執筆者、日本教育再生機構、教科書改善の会の四者に対して話し合いを求める書簡を会長名で送った(②)LinkIcon

10月30日付で四者からの返信があった。この返信では、話し合いを拒否したい本音は見え見えであり、ある意味では話し合いを拒否したとも取れる内容であったが、しかし、明示的に話し合いを拒否するとは書かれていなかった(③)LinkIcon

そこで「つくる会」は、この返信を基本的には話し合いに応じたものと解釈した上で、11月6日、「盗作問題を含む『あらゆる問題』を解決するための話し合いを、近日中に開始いたしたく存じます」と記した書簡を送り、その中で話し合いを進めるための「つくる会」側窓口をいち早く明示した(④)LinkIcon

11月12日付で四者からの返信があった。この返信は、10月30日付返信と同旨のものであったが、話し合いに応ずるという姿勢は10月30日付返信よりもやや強くなっていた(⑤)LinkIcon

「つくる会」ではこれを歓迎し、11月21日付書簡で、話し合いを進めるための四者側の窓口を知らせてもらいたいと再度要請した(⑥)LinkIcon


以上のようなやり取りの中で、著作権問題だけではなく、「つくる会」分裂以来の教科書改善運動全体の事柄が交渉の議題の候補として浮上してきた。また、その過程で、八木秀次氏は11月8日、育鵬社に対して書簡を送っていたことが判明した。その書簡には、盗作だと指摘されるような教科書をつくった責任は育鵬社にあるから、監修者・執筆者や教育委員会・学校等に謝罪せよ、裁判になるとすれば育鵬社が対応しろと書かれていた。


この情報を得て、「つくる会」側では、盗作問題の解決を図るためにも教科書改善運動にとって最大の障害物であり続けている八木氏を運動から排除することを条件として、二つのグループの大同団結を目指すという案が浮上した。そこで、「つくる会」は四者に対する12月12日付文書で、盗作問題に関する最大の責任者は八木氏であり、その責任を取らなければならないとして、日本教育再生機構理事長などの教科書運動に関わりのある役職すべてから辞任することを要求した。同時に、四者側の窓口を教えてもらいたいと改めて要請した。(LinkIconLinkIcon)


こうして、一貫して「つくる会」は四者との話し合いを求めてきたのであるが、ようやく、12月27日付「ご回答」という文書で、四者のうち育鵬社からのみ返答があった(⑨)LinkIconこの文書により、初めて正式に、育鵬社と「つくる会」との間で交渉する形が整った。


2、八木氏を除く大同団結の提唱

育鵬社との間の正式交渉は、1月8日、2月14日、2月21日の3回にわたって行われた。1月8日、第一回の交渉では、「つくる会」から、「話し合いに基づく『1社体制』実現のための提案」という文書を渡し、八木氏を除くことを条件に、かつ「つくる会」の設立趣意書の理念を生かす教科書づくりを前提に、教科書改善運動の大同団結を実現しようと提案した(⑩)LinkIconその要点は以下のとおりである。

(1)自由社と育鵬社が競合する「2社体制」は、教科書改善を全体として前進させる上で機能しなかった。

(2)自由社か育鵬社かのどちらかが消滅する形ではなく、双方を立てる形で「1社体制」を実現する。

(3)「1社体制」構築の方法

  • 1)出版社側が無断リライトの事実を認め、現行版教科書については「事後的にその著者を執筆者のメンバーに加えること」(当然に著作権使用料を出版社は支払う)。
  • 2)次いで、出版社としては、平成28年度以降の教科書では、1)の執筆者を加えた教科書を作成する方針を明示すること。
  • 3)上記二点を前提にして、以下の4点について実務的協議に入る。
    • ①出版社
    • ②教科書の書名
    • ③編集権の所在
    • ④執筆者の構成

(4)八木氏は日本教育再生機構理事長を辞任する

なお、その後当会の内部調査によって、自由社現行版に育鵬社側著者が著作権を有する文章を無断流用した部分が、4単元4箇所あることが判明した。「つくる会」は2月7日、「文化史記述問題に関する報告と謝罪」を発表し、以下の3点を公表した(⑪)LinkIcon

  • ①4単元4箇所で著作権侵害の事実があることを認め謝罪
  • ②平成27年度までの著作権使用料の支払いの用意があると表明
  • ③藤岡信勝氏の代表執筆者辞任

「つくる会」は自らの非に対しても、公明正大に対処したのである。


3、無断リライトの確認・謝罪さえも拒否した育鵬社

2月14日、第二回の交渉がもたれた。この日、交渉冒頭で育鵬社は当会からの「1社体制」案を正式に断った。実質的な理由は、「つくる会」とは編集権で結局折り合わないだろうということだった。当会は、会の「設立趣意書」に基づく教科書作成を追求しており、そのため、教科書内容の決定権・編集権を出版社に全面的に委ねるわけにいかないのは当然である。当方の提案もそれを前提としている。しかし、その前提を育鵬社は認めることができないということになる。

こうして、「1社体制」案は実らなかったが、当会としてはこれまでの交渉経過をふまえて、この日、以下のことを要求した。

(1)無断リライトの事実を認め謝罪する
(2)平成27年度まで著作権使用料を支払う
(3)八木氏を執筆者・監修者から除外する

この提案は、「盗作」を謝罪せよという本来の要求のハードルを下げて、「無断リライト」の謝罪要求にまで軟化している。法的手段に訴えることを回避したいという「つくる会」側の必死の努力を反映したものであった。

だが、これほど譲歩したにも関わらず、育鵬社側は、扶桑社の『改訂版 新しい歴史教科書』は関係した著者・監修者の「共有財産」だから互いに自由にリライトできる、との奇妙な議論を展開し、著作権侵害は一切存在しないと主張した。当会側は、平成21年8月25日東京地裁判決に基づき、扶桑社改訂版では個別のページごとに著作権者が確定していることを説明した。その上で、次回の交渉で上記提案に回答することを求めた。

2月21日、第三回の交渉が行われた。育鵬社側は「無断リライトの謝罪」さえも拒否した。事ここに至って、「つくる会」としては訴訟に訴え、本来の主張を貫くしか道はなくなったのである。

なお、今回の盗作事件は、教科書史上未曽有のものであり、育鵬社だけに責任があるものではない。執筆者・監修者、日本教育再生機構、教科書改善の会の三者にも当然に責任がある。とりわけ、育鵬社側教科書改善運動の総責任者ともいえる八木氏の責任は最も重いものがある。そこで、「つくる会」は2月20日付文書を三者に向けて送付し、三者の代表である伊藤氏、八木氏、屋山氏に対して「育鵬社問題の重大性とその責任について熟考され、潔くそれぞれの役職から退かれること」を勧告した(⑫)LinkIcon

2月27日、「つくる会」は会長名で四者に対し書簡を送り、今までの経過を総括するとともに、法的手段に訴えざるを得ないことを詳細に説明した(⑬)LinkIcon