教育出版――泥棒国家論と元号無視
泥棒国家論
東京書籍の項で展開した5つの否定的特徴は、全て教育出版にもあてはまる。その中でも最も目立つ特徴は、共産主義思想である。教育出版は、ロシア革命については負の側面を全く記していないし、スターリンの政治についても恐慌の影響を排除したとして基本的に評価している。最もその共産主義思想が現れているのが、国家成立論である。四大文明の箇所では通常の階級国家論が展開されているだけであるが、日本におけるクニの成りたちの箇所では、泥棒国家論とでもいうべき記述を行っている。引用しておこう。
「人々が稲作によって蓄え(富)をもつようになると、むらのなかに、貧富の差とともに身分の区別が生まれてきました。……むらの指導者は、人々を指揮して水を引き、田をつくり、むらの祭りを行ううちに、人々を支配するようになりました。やがて、そのなかには、むらの財産を自分のものにし、戦いで周りのむらをしたがえて、各地に小さなくに(国)をつくる者も現れました」。
「むらの財産を自分のものにし」という部分に注目されたい。国家の権力者というものは共有財産を奪って自分のものにした人たちだと述べているのである。このような説明では、国家の公共性は完全に否定されてしまうことになろう。
元号を忌避する教科書……特に前近代において
共産主義思想の強さと関係するのであろうが、教育出版は、前近代については基本的に西暦一本で表記し、元号併記を省略する。大宝律令や応仁の乱など元号と密接な名称を持つ事項については元号を基本的に併記するが、それ以外については全て併記しないという方針をとっている。この方針は、自由社と育鵬社以外の6社が基本的に維持するものであるが、教育出版は、日本文教出版や学び舎と同じく、文禄の役についても「1592年」と西暦一本で記しており、元号併記の件数は数件に過ぎない。学び舎ほどではないが、教出は著しく元号を無視する教科書であると言えよう。
1927年南京事件について唯一触れる
しかし、満州事変関係の記述は、多少とも評価できるものになっている。「1927(昭和2)年、国民政府軍が南京で外国の領事館などを襲撃すると」というふうに、本当にあった1927年の南京事件に触れている。国民党軍が日本領事館を襲って暴虐の限りを尽くしたことを記してほしいところだが、全社で唯一、この事件について記しているのは評価できよう。また、リットン調査団報告書が満州における日本権益について認めたことを、自由社と育鵬社以外の6社の中で唯一記している点も評価できよう。
平成27年7月23日更新