自由社――今後の教科書の改善方向を指し示す
記述改善の方向を示してきた『新しい歴史教科書』
「つくる会」が結成される前年、平成8年に出された歴史教科書はどのようなものだったであろうか。ほとんどの教科書が満州事変・日中戦争と「太平洋戦争」を「侵略」と表記していたし、日清・日露戦争さえも「侵略」と位置付ける教科書が多数派であった。すなわち、当時の歴史教科書は、日本近代の戦争を全て侵略戦争と捉えていたのである。
また、「南京事件」については全社が記述しており、日本書籍や東京書籍等6社が、殺害された人数を15~20万と見積もっており、まさしく「南京大虐殺」の立場をとっていた。徴用については、全7社が朝鮮人と中国人の徴用を取り上げ、日本書籍や大阪書籍など5社が70万人以上の朝鮮人と4万人の中国人を強制連行したと記していた。更には、全7社が「従軍慰安婦」を取り上げていた。おどろおどろしい日本犯罪国家観が教科書全体に踊っていたのである。
ところが、今回、「侵略」表記からいえば、満州事変・日中戦争については東書等3社が、「太平洋戦争」については東書だけが「侵略」と記すだけとなった。当たり前すぎるが、日清・日露戦争を「侵略」とする教科書は一社も存在しない。また、「南京事件」の犠牲者数を書く教科書は存在しなくなり、朝鮮人徴用を強制連行と位置付ける教科書は、学び舎と清水書院の2社だけとなった。少なくとも近代の戦争関係の教科書記述は、著しく改善されたのである。改善の方向を指し示し続けたのは、明らかに『新しい歴史教科書』である。
沖縄など南島地域の祖先は九州からの移住者であることを記した
とはいえ、改善されたのは一部の時代についてのみであるし、東京書籍の項で示した、①歴史の中心部分の流れが分からない、②対中韓隷属史観、③共産主義思想、④東京裁判史観、⑤琉球とアイヌに関する歴史の歪曲、といった5つの否定的特徴は、今も健在である。健在どころか、反って強化され続けているのが、②琉球とアイヌに関する歴史の歪曲という否定的特徴である。そこで、この欠点を克服すべく、自由社は、今回、例えば沖縄の住民に関して次のような事実を記すことにした。
「奄美や沖縄を中心にした南島地域の人々の主な祖先は、縄文時代に九州からわたっていった人々です。その地域の言語は琉球方言とよばれ、日本語の方言の一つです」。
沖縄などの住民が九州からの移住者が中心であること、琉球語が日本語方言の一つであること、この二点は誰も否定しない当たり前の史実である。ところが、これまで九州からの移住者という点を書いた教科書は存在しなかったし、琉球語云々の点も一時期帝国書院が記したことがあるだけであった。日本の歴史教科書執筆者たちは、沖縄独立論を志向する心性の持ち主が多いのか、これらの事実を隠してきたのである。沖縄と本土を対立的に描きたい彼らとしては、これらの事実を書くのは都合が悪かったのであろう。今後、これらの史実が歴史教科書に書かれるようになることを望むものである。
平成27年7月28日更新