各社の教科書を読む 歴史編通信簿|新しい歴史教科書をつくる会

kyokasho.jpg

HOME > 各社の教科書を読む > 各社の教科書を読む歴史編15項目通信簿

歴史教科書15項目通信簿―まだまだ続く中韓隷属史観




検定合格発表後、平成26年度検定に合格した中学校歴史教科書について目を通した。そして、各社で記述内容が分かれるか、比較的簡単に調査できる15の重要項目を設定して、分析検討した。その15項目とは次のようなものである。

近代以前
 ①稲作が(朝鮮半島からではなく)大陸から伝わったとのみ記しているか
 ②聖徳太子が隋と対等な外交を目指したことを記しているか。
 ③元の襲来を「遠征」と歪曲美化せずに記しているか
 ④琉球の人々は主として九州からの移住者の子孫であること等を記しているか
 ⑤秀吉の朝鮮出兵を、「朝鮮侵略」ではなく「文禄・慶長の役」等と表記しているか
 ⑥兵農分離が社会を安定させたことを記しているか
 ⑦浮世絵がジャポニスムを生み出したことをきちんと説明しているか
近代以降
 ⑧四民平等について、「身分制廃止」又は「四民平等」という小見出しを付けているか
 ⑨衆院議員の制限選挙開始について冷笑せずに紹介しているか
 ⑩憲政の常道が記されているか
 ⑪ハングル教育等、韓国統治の評価すべき点を記しているか
 ⑫日本が国際連盟規約に人種平等条項を盛り込む提案をしたことが書かれているか
 ⑬リットン調査団が中国側を批判していたことを記しているか
 ⑭虚構の「南京事件」を書かず、本当にあった通州事件を記しているか
 ⑮ポツダム宣言を無条件降伏ではなく条件付き降伏と書いているか 

15項目の分析結果を表に示すと、以下のようになった。


image-0024.jpg


中韓隷属史観にはまった歴史教科書

今日の歴史教科書に見られる最大の特徴は中韓隷属史観である。上の表を眺めてみると、改めてそのことを実感する。最近の歴史教科書は、東アジア世界においては、中国が一番古くて優れた文化をもつ上位の国、韓国・朝鮮が次に古くて優れた文化をもつ中位の国、日本が一番新しく文化の低い最下位の国であるという誤ったメッセージを、生徒に対して、日本国民全体に送り続けてきた(小山常実『歴史教科書が隠してきたもの』展転社、2009年)。上の表から知られるように、今回検定合格した歴史教科書も、同じメッセージを送ろうとしている。

最初に注目したいのは稲作伝来の記述である。自由社と清水書院以外の6社は、朝鮮半島から稲作が伝来したと記している。しかも、そのうち育鵬社以外の5社は、朝鮮半島から渡ってきた人が伝えたとする。今日では、揚子江流域から九州に直接稲作が伝えられたとする説が有力であるにもかからず、わざわざ朝鮮半島伝来説を展開するのである。日本の文化はすべて、中国から朝鮮半島を経由して、半島からの「渡来人」が日本に伝えたものが基になっているとする思い込みがあるのであろう。あくまで、朝鮮半島に住む人々を「文化の恩人」と位置付けておきたい願望があるのであろう。

また、東書、教出、帝国の3社と学び舎は、かつては全社が記していた聖徳太子が中国と対等な外交関係を結ぼうとした事実さえ記さない。学び舎に至っては、聖徳太子を基本的に「厩戸皇子」と表記し、しかも蘇我馬子の脇役扱いしている。

さらに、東書、教出、清水、帝国の4社は、元の日本襲来について、「元は日本への遠征を計画しました」(東書)というふうに、一般にイメージの良い言葉である「遠征」と表現している。にもかかわらず、東書、教出、清水と日文、学び舎の5社はいずれも、文禄・慶長の役について、単元見出し又は小見出しで「朝鮮侵略」と位置付けている。中国から日本へ進攻してくれば「遠征」で、日本から朝鮮へ進攻すれば「侵略」であるというのは、著しいダブルスタンダードであると言えよう。明らかに、歴史教科書の多数派にとっては、中国も韓国も日本より「目上の国」として位置づけられているわけである。

この中韓隷属史観の極めつけは、自由社以外の全ての教科書が、ありもしなかった「南京事件」を記し続け、本当にあった通州事件を書かないことであろう。昭和57(1982)年の教科書誤報事件以降、決定的に中韓隷属史観に染まっていった歴史教科書は、全て「南京事件」の虚構を記し、中国の代理として日本叩きを行ってきた。この教科書史の中に位置付ければ、自由社が「南京事件」を教科書から消去したことは画期的なことといえよう。


自虐化する育鵬社

自由社は、もう一つ画期的なことを行った。琉球王国の人間が主として九州からの移住者の子孫であること、琉球の言葉は日本語の方言の一つであることを記した。この2つを共に記した教科書は、これまでなかったものと思われる。これまでの教科書は、沖縄と本土を敵対関係に持ち込みたい狙いがあるからなのか、決して、この当たり前の記述をしてこなかったのである。

さて、もう一度、表をながめてみよう。○の数が多いほど、歴史歪曲の少ない優れた教科書ということになるが、○の数を確認してみよう。前回の平成23年版教科書についても同様の作業を行ったが、その時の○の数は自由社が15個、育鵬社が12個、他の五社が2.5~4個であったから、東書等5社VS育鵬社・自由社という対立構造であったといえる。

しかし、今回の比較調査では、自由社が15個、育鵬社が9個、他の五社が3~5個、新規参入の学び舎が1個となっている。明らかに、趙自虐史観派の学び舎VS自虐史観派の東書等五社VS育鵬社VS自由社、という4派が対立する構造となった。学び舎が登場し育鵬社が変化することで、新たな状況が生まれたのである。

もちろん、比較項目が半分ほど入れ替わっているので単純な比較はできないが、育鵬社は明確に記述を悪化させた。育鵬社は、衆院議員の制限選挙について、「有権者は総人口の1.1%(約45万人)にすぎませんでした」と冷笑するかのように紹介している。自虐史観に立つ東書等の多数派が行う定番の記述そのままである。これには驚かされたが、四民平等に関する記述は、更に驚くべきものになった。育鵬社は、「身分制度の改革」という小見出しの下、「新たな身分が記載されました」と記した。四民平等について「古い身分の廃止と新しい身分」と位置付ける学び舎と同類の記述を行うのである。かつて、教科書誤報事件以前に、歴史教科書の多数派が「身分制度の改革」とか「新しい身分制度」というふうに四民平等について記すようになっていた。つまり、国内体制の記述において自虐史観が始まっていたのである。育鵬社は、自虐史観に舵を切ったのであろうか。




平成27年7月9日更新