日本に生まれた全ての子供たちにチャンスの場を!
――下村博文・新文部科学大臣に聞く
第二次安倍内閣で文部科学大臣に就任された下村博文議員。幼少時の経験から目覚めた教育への想い。そして大臣から見る現状と、また今後目指すべき教育行政について話を伺った。(聞き手・杉原誠四郎会長)
文科大臣・下村博文の〝生みの親〟
杉原:この度は文部科学大臣へのご就任、おめでとうございます。今日は教育行政への想いをたくさん語っていただくことで、同時に文科大臣・下村博文のおひとがらも読者の皆様にお伝えすることが出来ればと思っております。よろしくお願いします。
まず、これまでも教育問題に長く取り組んでこられた先生ですが、幼い頃から、将来は文部大臣になると心に決めていたそうですね。これについてエピソードなどがおありですか。
下村:いえいえ、小学生の頃から心に決めていた、というわけではないんですよ。
実は私は小学校3年生の時、父を交通事故で亡くし、母子家庭で育ったんです。それで極貧の中の生活でしたので、小学校5年の時、女性の担任の先生でしたが、他の生徒のわからないところで色々と私を助けてくださいました。
例えば家庭科の授業で裁縫箱が必要なときにそれを自分で作ってくれて、私にだけそっと、他の子にわからないように渡してくれたり。悪く言えば私情ですが、よく言えば目をかけてくれた、いつも気にかけてくれた先生がいました。
その先生が、何の授業の時かは覚えてないのですが、みんなの前で「博ちゃんは、文部大臣になるかもしれないね」と言われたのです。その時はもちろん嬉しかったのですが、ただ聞き流していただけですね。しかしそれは時限爆弾のようなもので、大人になり、政治家を志した時に心に決めたのは、財務大臣でも外務大臣でもなく、文部大臣だったんです。先生の何気ない言葉がしっかり心の奥深くに残っていたんでしょうね。
「サッチャー改革」をお手本に
さて、文科大臣となられた今、日本の教育、特に歴史教育については、どうお考えですか。
今から10年ほど前、『サッチャー改革に学ぶ』という共著を出したんです。その中で、サッチャー改革によって英国の教育が蘇ったことを指摘しました。その改革の一つを紹介します。
かつて英国の歴史教育はなんと自虐史観だったんです。英国では元々、教科書検定や学習指導要領が明確でなく、それぞれの教師が自主的に教材を選んで使うことが許されていました。その結果、労働組合などが中心に作った教科書が広く使われていました。その教科書には、いかに英国という国が植民地の人たちの血と涙を搾取することで発展繁栄をしてきたかということが書かれているのです。それを読めば子供たちは自分の国に対して誇りも自信もなくなりますよね。そういう歴史教育を行っていたのです。
歴史には「光」と「影」の部分があります。サッチャーは影ばかりに焦点をあてて、自信を喪失してしまわないよう、英国には世界に誇れる素晴らしい歴史と文化があることを子供たちに教えたのです。歴史教育の大きな転換ですね。
自虐史観教育は、それまで私はわが国だけかと思っていました。敗戦国である日本は、戦勝国からそれを長く強いられてきましたが、実は戦勝国の英国もそうだったのです。そしてその英国が自らサッチャー改革によって変われたのですから、日本も同じように変わっていかなければなりません。
ですから今度の安倍内閣では、教育再生が、経済再生とともに最重要課題の一つなわけです。勿論、日本の歴史を100%、肯定するわけではありませんが、素晴らしい部分にもっと光を当てた教育を、子供たちにすべきだと考えています。
ちなみに「村山談話」、「河野談話」を含めて、「近隣諸国条項」など、これらの歴史認識については重要な課題ですので、内閣として取り組んでいきます。文部科学省も政府と共同歩調で進めていきたいと思っております。
「いじめ」問題への取組みこそ急務
「教育再生実行会議」が政府内に設置されました。ここは今後具体的にどのような役割を担うことになりますか。
「教育再生」については本来、文部科学省が担当してもおかしくないのですが、先程申しましたように、これが安倍内閣の最重要課題の一つとの位置づけから政府を挙げて取り組むため、総理官邸に置かれることになったのです。
この教育再生実行会議の中で、ただ今、懸案事項を一つ一つ整理しておりますが、喫緊の課題としてあがるのは、やはり「いじめ」問題ですね。まずは今国会で、「いじめ対策防止基本法」を必ず制定したいと考えております。いつまでも議論することより、今まさに毎日、「いじめ」で悩み苦しんでいる子供を救うことが大切ですから。この基本法に資する提言を2月中に教育再生実行会議から出してもらうことになっています。今すぐやるべきこと、そして基本法に盛り込むべきことなど具体的改善策を練ってもらいます。
今問題の「体罰」についてはいかがお考えですか。
「体罰」はもともと法律で禁止されているわけです。いけないものはいけない。今回の一連の事件を通じて、今、日本の教育は「体罰」によって子供を引っ張っていくという次元から脱皮し、ワンステージ上げる時期にあるのではないでしょうか。「体罰」によらない指導でいかに生徒を引っ張っていくか、これが今後、教師力として求められると思います。
形骸化した「教育委員会」にメスを
前出のいじめや体罰の問題でも大きな責任の一旦を担っている「教育委員会」ですが、現行の教育委員会制度についてはいかがお考えですか。
教育委員会制度の抜本改革は、まさにその次のテーマです。今の教育委員会は形骸化し、問題が発生した時に的確に対応できていません。
教科書採択の観点からみると、一昨年に沖縄県八重山採択地区で起きた問題。これは、教育委員会と採択協議会の採択権限に関する問題なんですよね。これについては前政権の時から文科省の中でも議論をしてきたようですし、引き続き整理をしていく必要があると思いますが、そもそも論として、教育委員会のあり方自体を議論していきますので、その中に採択権限の問題も含まれてきます。
スケジュール的には、初夏くらいを目処に中央教育審議会に対し、私が責任者として「教育委員会制度改革に関する諮問」を行う予定です。その諮問をするために資する基本的な方向性の議論を教育再生実行会議でしてもらいます。そしてこの諮問を経て、その答申をできれば年内にもらい、来年の通常国会に教育委員会の抜本改革案を政府から出したいと考えています。
全ての子供たちにチャンスの場を
最後の質問になりますが、「大臣在任中にこれだけはやりたい!」というご自身のテーマがあればお聞かせください。
日本青年研究所の高校生の生活意識に関する調査によれば、「自分はダメな人間だと思うか」という質問に、YESと答える日本の高校生は66%にもなります。
ちなみに中国は13%、米国は22%、韓国は45%。他国と比べても日本の学生は自分に自信が持てていない。こうした子供たちが大人になった時、急に目覚めて、幸福感や意欲を持って人生を送るというようなことはありえないですよね。
今の日本の教育では子供たちの自信は失われていく一方です。本来、教育というのはその逆であるべきですよね。教育によって子供たちの自信を引き出し、そして社会の中で頑張っていく意欲と能力がそなわった人材に育てていく。これが教育の役割でしょう。
日本に生まれた全ての子供たちにチャンスや可能性がこの国にはある。そして自己実現する場が他のどの国よりも存在している、こういう教育環境をいかに早くつくるか。本質的なテーマでありますが、文部科学大臣として取り組んでいきたいと思っています。
(平成25年1月29日 文部科学省大臣室にて)
平成25年7月19日更新