新しい歴史教科書をつくる会|「史」から 平成24年9月

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尖閣に見る草莽の底力



 「夢みたい。一生の宝」

 顔を輝かせながらそう語ったのは、「頑張れ日本! 全国行動委員会」の呼びかけで6月9~10日にかけて行われた尖閣諸島集団漁業活動に「漁師見習い」として参加した、ひとりの女性だ。天候に恵まれたとはいえ、小さな漁船での往復約18時間の船旅では船酔いに苦しむ参加者も続出し、甲板に転がったまま身動きのとれなくなる人、「緑のゲロまで吐きました」という人もいた。

 「頑張れ!」幹事長水島聡氏に率いられ、平成23年に開始された尖閣漁業活動は8回目のこのとき初めて参加者を一般公募したが、参加費は104,000円。それだけの私財を投じた上に、船酔いのリスクを冒して荒波を越えていくのである。にも関わらず、あっという間に定員はいっぱいになり、出遅れた人はお断りするような状況であった。

 最終的に、「漁師見習い」として参加したのは、87名。内15名が女性で、おおよそアウトドアとは縁遠そうな人も少なからずいた。冒頭の印象的な言葉を語ってくれたのも、色白で品のいい初老の女性である。
そうした老若男女ごちゃまぜの一行が漁船14隻に便乗して9日午後10時に石垣を出港し、漁師30名とともに尖閣を目指した。翌10日未明、尖閣海域に到着。魚釣島の陰から昇る神々しい日の出を目にした後、集結してパレードを行った。南北小島を背景に艦隊行進風の一列縦隊、そして魚釣島をバックに水軍風の一斉行進。海の彼方で黙々と国を守り続ける防人のような尖閣の島々を前に、日の丸を翻した漁船団が疾走する姿はなんとも勇壮で、胸に迫るものがあった。

 尖閣事件は私にとって、「戦後体制の闇の深さがこれほどまで如実に国民の目に曝されたことはなかったのではないか、これを機としなければ日本再生はない」と感じさせる重大事件であった。しかし、大震災をはじめとするその後の事象を経て、大多数の国民は、これを忘れてしまったかのように見えた。それが、石原都知事の尖閣購入発言を機に、あれよあれよという間に募金が集まり、13億円を超えた(7月31日現在)。同様に、今回の活動に「実効支配のお役に立ちたい」と草莽の志が続々と集結。目の前で繰り広げられたパレードは、4度目(撤退を含めると6度目)となる尖閣行きだった私にとって、夢のような光景であった。そして遂に、世論は野田首相をして「国有化を検討する」と発言するに至らしめたのである。国有化の賛否はさておき、この事実は、私に草莽の底力を教えてくれた。

平成24年11月7日更新



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葛城 奈海(かつらぎ なみ)
「やおよろずの森」代表