新しい歴史教科書をつくる会|「史」から 平成24年3月

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今が拉致問題解決の正念場

――『ワシントン北朝鮮人権委員会拉致報告書』(自由社)を読んで


 旧知のチャックダウンズ氏が、綿密かつ濃厚な取材と多くの研究スタッフの努力をもとに「Taken!」という衝撃的な英文書籍を発表されました。「Taken!」は、拉致問題に取り組んできた者のみならず、広く世界中の人々にとって見逃すことのできない一冊となるでしょう。時を置かずして自由社から日本語版が出版されたことは非常に有難いことでした。本書は、北朝鮮によって突然、拉致された14カ国18万人余りの拉致被害者に関する報告書です。これまで、国際社会において、拉致問題は日本と韓国に特有の問題と見做されがちでした。世界中に拉致被害者が存在することが、英文で詳細に明らかにされたことは、国際政治の力学を変え得ると評価しています。

 私たちに当然のごとく存在する日常が、ある日突然奪われるのが「拉致」です。何の罪もない無辜の民が、猿轡をされ袋詰めにされて連れて行かれ、北朝鮮では、常に厳しい監視の下で、自由のない監禁状態に置かれます。第二次世界大戦直後から60年以上に亘り、欧米を含む世界中でこの国家犯罪が繰り返されました。その事実が、北朝鮮での過酷な生活を経験した脱北者や拉致被害者からの詳細な聞き取り調査によって具体的に明らかにされています。読者は、北朝鮮の犯罪について、映像のようなイメージをもって体系的に知ることになるでしょう。

 昨年末、北朝鮮の金正日総書記が死去しました。2002年の日朝首脳会談で拉致を認め謝罪した金正日総書記の代に、日本人拉致被害者の帰国を実現できなかったことを非常に残念に思っています。被害者帰国の可能性が十分あるという確信を抱いて動いていた時に、政権交代があり、政府の職を離れたことは誠に無念なことでした。北朝鮮は、体制移行期に入りましたが、後継者とされる金正恩はまだ若く、統治能力は未知数です。新体制が固まってしまう前に、日本政府は行動を起こさなければなりません。この機を逃してはならない、今が拉致問題解決の正念場にあると考えています。

 奇しくも、本書の結論部分で、「金正日後」に触れられています。著者は「新指導部が外国人拉致被害者について説明責任を果たすことは、期待できるであろう。それについては、国内的な反発はほとんど考えられない。むしろ、そうすることは、拉致問題を懸念する国々に対する有効なメッセージになる。従って新指導部にとって、拉致問題での対応が、最も重要な外交施策となりうる」と述べています。

 今、日本政府に必要なことは、北朝鮮の新指導部が、拉致問題の解決が北朝鮮にとって有益であると考え、拉致問題を最も重要な外交施策と位置付けることができるよう、北朝鮮に対し、明確で強い働きかけを続けることです。そして、拉致問題を懸念する国々の意志を糾合することだと考えています。



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中山 恭子(なかやま きょうこ)
参議院議員