「史」から~「帰化人」の復活-最新の『岩波講座 日本歴史』に「帰化人」論文が登場|新しい歴史教科書をつくる会

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「帰化人」の復活
 -最新の『岩波講座 日本歴史』に「帰化人」論文が登場



日本の古代史において「帰化人」が果たした役割は軽視できない。そこで歴史教科書でも必ず言及される。

ところが“帰化人”という用語は差別的であるとか、「皇国史観」と表裏の関係にある、更には歴史的実態と合致しないなどとして、批判する声が挙がった。「近代以降の日本の朝鮮・中国にたいする植民地支配・侵略とその影響を受けてつくられた、被支配民族への抑圧を歴史的に溯源させて根拠を求めるという誤った観念」(鈴木靖民氏)とか、「明治いらい、『三韓の服属せし以来皇化を慕いて来るもの多く』といった帰化人史観がさけばれ、戦後においても無批判にこのことばが受けいれられてきた」(李進熙氏)等々。

かくて“言葉狩り”のような状況が生まれ、ほとんどの教科書から「帰化人」の語は一層されてしまった。代わって定着したのが「渡来人」である。『日本古代史研究事典』も「この語は近・現代の日本で民族差別を助長する役割をも果たした。新たな造語である渡来人も内容的に意を尽くさないうらみが残るが、帰化人に比べてより問題が少ない」(加藤謙吉氏)としていた。

だが、『新しい歴史教科書』では一貫して「帰化人」を採用して来た。

それは学問的根拠に照らして、物理的な移動しか意味しない「渡来」より、日本社会への受容と同化を含意する「帰化」の方が相応しいと判断したからだ。

その際、参照されたのは関晃氏、平野邦雄氏、松尾光氏、中野高行氏らの研究である。

しかるに近頃、歴史学会のスタンダードな見解を示す『岩波講座 日本歴史』の最新版の第二巻に、丸山裕美子氏「帰化人と古代国家・社会の形成」なる論文が収められた。

この論文では「『渡来人』は・・・単なる物理的な移動を意味しており、移住・定住の意味はもたない」として、「渡来人」の語を明確に斥ける。一方、「『帰化』の語は・・・東アジア世界において、戦乱や飢饉などの理由で自ら移動し、別の国に定住していく人や集団を、所在の王権が受け入れることをもって『帰化』と称した」と整理し、はっきり「帰化人」の語を採用すべきことを結論づけておられる。

当会の教科書記述の妥当性があらためて最新の研究成果によって補強されたことになる。


高森 明勅(たかもり あきのり)
  日本文化総合研究所代表 


平成27年12月10日更新



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高森 明勅(たかもり あきのり)
日本文化総合研究所代表