「史」から~大國魂神社 「軍艦多摩」慰霊祭について|新しい歴史教科書をつくる会

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大國魂神社 「軍艦多摩」慰霊祭について




軍艦「多摩」と大國魂神社

大日本帝国海軍軍艦多摩は大正10年三菱長崎造船所にて完成し、艦内神社として大國魂神社の御分霊が祀られていた。昭和16年8月、第五艦隊に所属した多摩は北方部隊として主に北千島及び本土東方海面の作戦を担当し、アリューシャン攻略作戦、キスカ島撤収作戦などに従事した。

多摩は小澤治三郎率いる機動部隊本隊に所属、20日夕方豊後水道を南下出撃した。その任務はブルネイに集結していた遊撃部隊の囮部隊となって敵の機動部隊を引きつけ遊撃部隊のレイテ湾突入を援助することだった。機動部隊は23日夕方、エンガノ岬沖に進出、24日朝より索敵を開始し、敵機動部隊を発見、攻攻撃隊を発進させこれを攻撃し、損傷を与えた。

しかし、翌25日、朝より敵艦上機の攻撃を受け、多摩は旗艦室に魚雷を受け速力が低下、戦線を離脱し日本に向け単独航行中、米海軍潜水艦ジャラオから雷撃を受け、午後11時10分、エンガノ沖東北東方340海里、北緯21度23分、東経127度19分の地点に於いて沈没した。救助する僚艦もないまま山本岩多艦長以下総員が未帰還となった。


70年という節目を迎えて

大國魂神社では、今年多摩が沈没して七十年を迎えるのを機に、宮司が発起人となり、戦没者慰霊祭を執り行う計画を立ち上げた。その内容は多摩と共に海に沈んだ大國魂神社の御分霊と、戦没者の御霊を大國魂神社にお祀りし、慰霊祭を斎行するというものである。

設立10周年を迎えた大國魂神社氏子崇敬会では、記念事業の一環として、軍艦多摩戦没者慰霊祭の斎行について協力依頼を受け、平成25年10月より役員の中で相談会を開き、戦没者の御霊の招魂方法、慰霊碑、遺族捜査について話し合った。

戦没者の御霊の招魂に関しては、当初沈没地点まで飛行機で行き招魂祭が執り行えるか検討してきたが、沈没地点がフィリピンの防空識別圏内にあるため断念し、また沈没地点は沖縄から約600キロ離れた地点であり船で行くことも困難とされた。そのため、沈没地点までは行けないにしても、船で沖縄南方沖まで出て招魂祭が行えないかどうか検討を進めた。


困難を極めた戦歿者の確認

遺族捜査では、多摩が沈没時の艦長山本岩多氏のご長男と連絡を取り、元乗組員の方をご紹介いただいたり、地域の海軍兵学校出身者の方に協力をいただき水交会において資料の確認などをお願いして情報の収集にあたった。また国立公文書館において資料の閲覧を行い、兵学校、機関学校、経理学校、軍医学校出身者の16名の戦没者の名前を確認することができた。

しかし、その他、下士官兵に関しては情報が無く、各方面に問い合わせをしたが、有力な情報は得られなかった。そのため、慰霊祭斎行のポスターやチラシを製作し、ポスターについては全国の護国神社への掲出を依頼、またチラシを靖國神社遊就館へ配布依頼、水交会誌や日本遺族会報への記事の掲載を行い、広く一般の方に知って頂くよう依頼した。

併せて、府中市役所の記者クラブに多摩に関する資料を置き、取り上げていただけるよう依頼した。その結果、慰霊祭までに30名の戦没者の名前を確認することができた。


念願の「慰霊祭」の開催

慰霊碑は神社境内の府中市戦没者忠魂碑参道横の植え込みに設置することに決め、デザインは多摩の艦影を転写彫りという特殊技術で彫り込み、「大日本帝國海軍軽巡洋艦多摩戦没者慰霊碑」と題しその下に「玉の緒のあらんかぎりは大神のみ恵うけて國や守らん」という海軍少佐松川彦太郎氏が当社に奉納された詠歌を彫り込んだ。

慰霊祭に先立つ10月4日、沖縄に於いて戦歿者の御霊の招魂祭を行った。本来ならば船で沖縄南方海上に出て行う予定であったが、台風18号の影響で欠航になり沖縄県護國神社の会館において斎行し、御霊代に戦歿者の御霊を移霊し神社に持ち帰り本殿にお祀りした。

25日午後4時より遺族50名を含む約200名が参列し、慰霊祭が斎行された。ご本殿にお祀りしていたご神体を唐櫃に納め氏子青年崇敬会の絹垣供奉仕のもと参進し、お祓いを受けた慰霊碑に奉安した。その後、宮司、総代会長、奉賛会長、遺族等が奉仕し、除幕が行われた。祭詞奏上ではこれまでに判明した戦歿者30名の名前が読み上げられ、巫女による浦安の舞の奉奏並びに参列者全員で海ゆかばを奉唱し戦歿者乗組員の御霊を慰めた。

その後、遺族代表として山本氏が玉串奉奠を行い続いて各団体代表者が玉串奉奠を行った。

引き続いて会場を参集殿に移し、設立総会を開催、会則案、役員名簿案、趣意書案、活動計画案が審議承認された。直会では靖國神社德川宮司、東郷神社福田宮司ほか来賓の挨拶の後、献杯が行われ盛会のうちに終了した。

大國魂神社では毎年10月25日軍艦多摩戦歿者慰霊祭を斎行していく予定である。


榊田 千景(さかきだ ちかげ)
  大國魂神社権禰宜 


平成27年10月22日更新



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軍艦多摩戦没者慰霊碑
(大國魂神社境内)