「家族」の重要性を強調した、時代が要請する教科書
麗澤大学大学院特任教授 高橋 史朗
平成11年の男女共同参画社会基本法の成立に伴って、教科書検定の基本方針が一変し、家族は固定的なものではなく、家族の個別性(人によって違う)、多様性が強調され、「唯一の理想的な家庭像の追求は避けるべきである」と明記されるようになった。
そのような風潮の中で、自由社の公民教科書が、第1節「家族の中で育つ私たち」の冒頭に「家族の役割」として、「家族は男性と女性の愛と尊敬から始まります。そこで生まれた子供は、とても無力な状態にあり、肉体的かつ精神的に一人前になるまで親の長期間にわたる世話を必要とします」と、家族の基本について明記していることを高く評価したい。
霊長類は生まれてすぐに自立できるが、人間は進化の歴史の中で、二足歩行によって産道が狭くなったために、脳が未熟なまま「生理的早産」で生まれるようになった。
そこで、子供が自立するためには、優しさの母性愛と厳しさの父性愛という「親の長期間にわたる世話を必要」とするようになったのである。
このスイスの動物学者ポルトマンの「生理的早産」説を「ミニ知識」のコラムで詳述していることは、他社の教科書には見られない特色として極めて注目される。
また、「家族の絆は社会の基盤」「家族の団らん」「子供や孫に慣習と文化を伝え、社会生活のルールやマナーをしつけるという役割」を強調している点も評価できる。
1 9 9 0 年代から「自己選択・自己決定」が強調されるようになり、「家族の個人化」「家から個人へ」を強調する教科書が増えた。
しかし、自由社の公民教科書は、「個人は家族の存在を前提として成り立っている」と明記し、「家族は、祖父母から父母、そして自分へとつながり、未来の自分の子供へと続く『縦のつながり』ととらえ、過去から未来に流れる時間のなかで人々がつながっていく場としてもとらえる必要があります」と明記していることは特筆に値する。
さらに、「家族間の協力」として、「家族の大切さは単純な損得では計算できません。計算をこえた、たがいの理解、愛情と協力によって、豊かな家庭生活は維持されます」と、経済の物差しを超えた幸福の物差し、社会の基盤としての家族の意義を見直す必要性に言及している点も評価したい。
「少子高齢化とは何か」において、「少子化の背景には、晩婚化や非婚化」という根本問題があることを明記している点にも注目したい。少子化社会対策大綱や8県6市の家庭教育支援条例等が明記している「親になるための学び」が中学生にも求められている。
「持続可能な開発目標」17項目の内、早期教育への投資が8項目を占めており、その基盤となる家族の重要性を強調した本書こそ、時代が要請する教科書といえる。