「憲法」成立の事実を明示した、
真っ当な教科書の出現を歓迎する
城西大学准教授 小野 義典
中等教育は、多感な時期の青少年にとって、大変重要なものである。しかしながら、その中等教育に「嘘」や「ファンタジー」が紛れ込んでいることが往々にしてある。高等教育の現場にいる私は、その「嘘」や「ファンタジー」を是正するのに悪戦苦闘している。そのような中で、自由社の『中学社会 新しい公民教科書』は、ようやく「真っ当」な教科書が出現した、と思わざるを得ない。
現在では、中等教育学校や中高一貫校があり、また、「高大連携」が推進されるようになると、当然のことながら、高等教育である大学の教育のみ、初等・中等教育と分離されることはありえない。むしろ、以前にも増して、中等教育との連関が重要視されるようになってきている。
このような状況の下で、荒唐無稽な、いわば「ファンタジー」のような内容の教科書で学ぶ、ということの恐ろしさが、高等教育に携わっている私には、身をもって感じるところである。例えば、「大日本帝国憲法という、トンデモない憲法が、日本国憲法という、大変素晴らしい憲法になった」などという「嘘」を、中等教育までの教育で学んでしまった学生が、高等教育で真実を知る、ということが往々にして起こりうるのである。
自由社の『中学社会 新しい公民教科書』では、このような嘘を是正している「真っ当」な教科書である。「天皇の『統治』を『シラス』という古語で説明し」ているという記述(本書54頁)や、「大日本帝国憲法は・・・内外から高く評価され」たという記述(本書55頁)は、他の教科書の、「天皇主権」という「ファンタジー」や、「人権は・・・法律によっても制限されない」という荒唐無稽な記述とは一線を画するものであろう。
大日本帝国憲法の下で、「天皇主権」であったのか、と問われるのであれば、帝国憲法四条は「統治権ヲ総攬」する立場であるので、「天皇主権」ではないことが、条文をみても明らかである(少なくともウシハクではなく、その点、シラスという記述がある本書が評価できる)。また、現在の日本国憲法においても、「公共の福祉」の名の下に、法律で権利は制限できる一点をみても、人権は・・・法律によっても制限されないことがありえないことの証左であろう。
また、日本国憲法の成立についても、時系列で示し、特に、「GHQ(連合国軍総司令部)の意向に沿った」ものという事実を明示していることも、他の教科書とは異なる画期的なところでもある。実際、大学における法学教育でも、日本国憲法の成立については、学説を含めて、かなり学習するため、中等教育段階で、このような事実関係を押さえることは、今後の初等・中等・高等教育を結ぶ教育の上で必要不可欠な学習と言えよう。本書を推薦するゆえんである。