各社の教科書を読む公民編 帝国書院|新しい歴史教科書をつくる会

kyokasho.jpg

HOME > 各社の教科書を読む > 各社の教科書を読む公民編 帝国書院

帝国書院――内容が改善された、それでも政治権力・防衛力の脆弱化を狙う




帝国書院については、4つの否定的特徴のうち、第一の家族解体の傾向は必ずしもあてはまらない。もちろん不十分さはあるが、これまで見てきた東書等の4社と異なり、1単元本文2頁を使って家族論を展開しているし、共同体という言葉こそないが、「最も身近で基礎的な社会集団」と家族を定義しているからである。育鵬社程度には家族を重視していると言えよう。


大きく改善された国際社会編

これに対して、他の3つの否定的特徴は帝国書院も持っている。特に、全体主義的民主主義の傾向は、教育出版と同程度に著しい。だが、帝国書院は、歴史教科書とともに大きく改善された。特に国家解体の傾向が弱くなり、対外主権を守ろうという観点が強く打ち出されるようになった。したがって、国際社会編の記述が改善され、その中でも領土をめぐる記述が大きく改善された。前回の帝国書院は、竹島と尖閣の問題を唯一記述していなかった教科書であった。しかし、今回は、【領土をめぐる問題】という単元を設け、2頁の分量で北方領土・竹島・尖閣について明確に日本側の立場から説明している。

そればかりではない。この単元の最初に「領土をめぐる問題とその原因」という小見出しを置き、「世界では領土をめぐる争いが起こり、戦争にいたるものも少なくありません。その大きな原因は、国と国との利益の対立です。どの国もその領土を広げ、多くの資源を手にしようとするならば、国と国との争いが続いてしまいます」と記している。国益という言葉こそ用いていないが、国際社会を国益と国益のぶつかり合う競争社会と捉えていることが分かる記述である。当たり前のことではあるが、自由社と育鵬社以外の教科書が国際社会=競争社会論を明確化したことに注目しておきたい。

更に良い意味で驚かされたのが、国連に関する記述である。日本の常任理事国化の取り組みに加えて敵国条項の削除問題も紹介している。敵国条項の具体的中身こそ記していなが、未だに削除されないのは不当であるというメッセージを送っている。


自衛戦争の権利まで明確に否定する帝国書院

以上のように対外主権の観点が強くなり、国際社会編の記述が大きく改善されたにもかかわらず、帝国書院は、対内主権及び政治権力・防衛力の脆弱化を狙っているような記述を行う。国内政治編で国家論を全く展開しないどころか、政治編に入って民主主義や平和主義、人権等を30頁ほどかけて教育してから初めて政治権力の必要性を明言する。しかも、その平和主義は、全社の中で最もお花畑的なものである。コスタリカの例を紹介し、自衛隊違憲論に力点を置いた書き方をするだけではなく、「第9条で戦争を放棄し、戦力を保持しないことや国が戦争を行う権利を認めないことを定め、平和主義を宣言しています」とまで記す。このように自衛戦争を行なう権利まで明確に否定されれば、日本は他国から侵略されれば滅んでいくしか道はなくなるであろう。ともかく、この書き方には驚かされた。次回には、せめて、この文言を削除してもらいたいものである。








平成27年8月4日更新