各社の教科書を読む公民編 日本文教出版|新しい歴史教科書をつくる会

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日本文教出版――社会契約説と侵略戦争論




社会契約説による国家成立論

日本文教出版も4つの否定的特徴を有している。その中でも、東書や清水と同様、第一に家族解体の傾向が著しい。家族論をテーマとする単元を設定していないし、家族記述の分量はわずか11行にすぎない。それに、家族の定義も「最小の社会集団」とするだけであり、「共同体」どころか「社会の基礎集団」とさえもしない。東書と同じく、いかにも軽い捉え方である。

この家族軽視の背景には、バラバラな個々人の集合体として社会一般をとらえる、行き過ぎた個人主義の考え方がある。この考え方から、日本文教出版は、「きまりを守る責任とその評価」という単元で、「国家も、国民がたがいの存在や生き方を尊重し合うことを約束し、必要な政府をつくるという契約によって成立しているとみなすこともできます」と述べている。社会契約説による国家成立論である。このような説明は他社には存在しないから、日本文教出版の個人主義は際立ったものといえよう。


政治権力の必要性だけは認める

第二に国家解体の傾向は、東書や清水と同じく強固である。上記のように一方で展開しなくてもよい契約国家論を明確にしながらも、日本文教出版は、政治編の冒頭では全く国家論を展開しようとはせず、国家の定義も役割も記さない。また、国益という言葉さえも使っていないし、拉致問題についても、単元本文2行と写真1枚とそのキャプションで済ませてしまうのである。

ただし、政治編の最初の方の部分で、東書や清水とは異なり、政治権力の必要性を2度も明確化している。例えば、2回目には「政治を行うために、きまり(ルール)を定め、強制する力が政治権力です」と述べている。何ともおかしなことではあるが、戦後公民教科書の世界では政治権力の必要性を認める教科書は基本的に少数派であり続けたという事実がある。それゆえ、この点では、日本文教出版は評価できよう。


日本は侵略を反省して9条を採用した、との物語

第三に、アイヌ、沖縄、在日、中韓に対する贖罪意識の植え付けという特徴も強固に存在する。贖罪意識の植え付けは、「平等権」や平和主義について記した箇所で行われている。何よりも、9条について記した箇所で「かつての日本は、日中戦争や第2次世界大戦を通じて、アジア・太平洋地域を侵略し、ほかの国々に深刻な損害をあたえました」と記し、この「侵略」などを反省して九条を定めたとしている。歴史教科書の中でさえも減少してきた「侵略」という位置づけを、全社の中で唯一、日中戦争と大東亜戦争に対して行っている点が注目される。






平成27年7月30日更新